2002年11月30日

からだの”水”を考える vol.3 
「『だ液』を考える」

柳下歯科医院 院長
柳下 道郎先生




体の中から出るもので必要でないものはありません。
口の中でいえば、だ液はとても重要です。

ものを食べる ― 口の中が酸性になる ― 虫歯になりやすくなる

皆さん、虫歯にならないように歯ブラシをします。

ところが。
歯ブラシをしなくても虫歯や歯槽膿漏にならない人もいます。

それはだ液の働きがかなりの比重をしめています。

ものを食べる ― 口の中が酸性になる
    ― 歯の表面を覆っているエナメル質の中のカルシウムが溶け出す(虫歯)=穴があく ― だ液の作用(再石灰化)が働き、溶けた歯が元に戻る

口の中は上記を繰り返しています。

「よく噛みましょう 1」
噛むことでだ液の分泌量があがります。
だ液の作用(口の中を中性に保つ&再石灰化)によって虫歯や歯槽膿漏になりにくい環境を作ることができます。

だ液の分泌量
1日中均等に出ているわけではありません。
朝6時、7時に起床した場合 ― 分泌は徐々に増えていく ― ピークは午後3時くらい ― だんだん少なくなっていく ― 夜は非常に少なく、朝方はほとんど出ない

眠っている間は口の中は乾いている状態です。
その時に食べ物のカスがあると、口の中がずっと酸性のままです。
ですから夜眠っている間に虫歯菌や歯槽膿漏菌は繁殖します。
こういう知識があると、食べ物の摂取の仕方が少し変わってきますよね?

なるべく早いうち食べ物の摂取を止めることで、かなり虫歯などを防ぐことができます。
夜食べる時にも、口の中が乾いてきますので水分をよく摂りましょう。
水分を摂ることで口の中の乾燥状態を防ぎ、虫歯菌・歯槽膿漏菌の繁殖を抑えることができます。

だ液の作用
消化作用食物の消化を助ける
溶解作用食べ物を飲みやすくする
自浄作用口の中の食べ物のカスを取り除く
緩衝作用口の中の状態を一定に保とうとする(再石灰化)
抗菌作用

つばは接着能力がとても高いです。
総義歯の人(自分の歯が1本もない人)でつばの出が悪い人は、すぐに入れ歯が落ちてしまいます。
入れ歯は表面をつばで濡らすことで接着能力が増します。

「よく噛みましょう 2」
噛むことは脳の発育にもいいです。
入れ歯がよく合っていなくて噛む能力が落ちると、脳が萎縮してきます。
(アルツハイマーの70%が入れ歯の人であるといいます)
噛むことによって脳の働きは活性化します。噛むためには「噛める入れ歯」を入れていることが大切です。

口臭について
食べ物のカスが取り除けていないために口臭がする ・・・ ×
以前(20年くらい前)は、口臭には歯ブラシの指導だけしかしていませんでした。
最近は治療が進んでいます。いろいろな生理学的なことが言われるようになりました。

口臭がするのは、舌であったり、胃であったり、歯周病や虫歯があるからであったり、だ液の減少による病的なものであったりします。
口臭が気になる時間帯も、1日中感じる人もいれば、朝起きた時にすごく感じる人もいます。
原因は患者さんによって違います。歯医者さんに直接話して、相談しましょう。


年齢とともにだ液の分泌量は減少する。
加齢とともに汗やだ液の出は悪くなってきます。

食べているものも、歯ブラシの仕方も若い頃と変わらないのに虫歯や歯槽膿漏になった。
ろくに歯ブラシをしないのに若者達は虫歯や歯槽膿漏になりにくい。
こういうことはだ液に原因がある、と言われています。


だ液を促す薬もあります。
ただあまり症状がひどければ出しますが、だ液は生理的に出るものですし、副作用もありますので僕はあまり出しません。

だ液が出にくくなる薬もあります。
若い頃と違ってくるのは、日常的に薬を飲んでいる可能性が高いということです。
薬が全般にいけないというわけではなく、後天的な要素が加わることで口の中が乾燥してきたりすることがあるからです。
薬は飲まなければいけないでしょうから、飲み方などを先生と相談するといいと思います。

ストレスも口が乾く原因になり得ます。

口呼吸をする人。鼻から吸って口から出せずに、口から吸って吐くので口の中が乾いてしまいます。

口腔乾燥症によってつばが出にくいということには必ず原因があります。
原因をどれだけ追求できるかによってかなり改善できるので、先生と相談してください。

つばはどこから出ているのか
舌下腺
耳下腺
顎下腺…いちばん多く、70%くらいはここから出ている
小唾液腺…唇や口の中の粘膜など

小唾液腺はつばの通る腺がとても細いので石が溜まることがあります。
石が溜まったり、傷ついたりすると唇がぷっくり腫れたりします。
この場合、唾液腺を切除します。簡単な手術ですが、腫れが最大に大きくなったところで切らないと残ってしまうことがあります。
こどもで唇を噛むくせのある子は、よくなります。
ただ大きな病気ではないので、小さいお子さんの場合は切りません。
切らないと何か悪い病気になるのでは、と心配する親御さんもいらっしゃいますが、そんなことは全くありません。

キシリトールの再石灰化
だ液はもともと再石灰化の作用を持っています。
ただキシリトールに比べると弱いです。
フッ素やキシリトールを塗布することで、小さな虫歯は再石灰化し、元に戻ります。
子どもの場合は削りたくない、ということで小さな虫歯はフッ素の塗布だけで終わりにしたりします。
同じことで、つばの出方がいいと歯槽膿漏にも虫歯にもなりにくくなります。

だ液の状態がいい人はキシリトールやフッ素を塗ることはかなりいいことです。
子どもだけでなく大人が塗ってもいいのです。
だ液の作用が落ちてくる40歳代以降にまめにフッ素やキシリトールをとることは、虫歯や歯槽膿漏を防ぐ要因になります。
塗るのは簡単ですから、月に1度くらい行くと(大変ですけれど)いいと思います。

今は10年前と違って、虫歯だからただ虫歯を削って治すのではなくて、どうして虫歯になったかを考えるようになってきました。
人によって違うので、その個人差を見分けられるかは先生によって違います。

歯槽膿漏はどうして起こるの?
歯の根元に食べ物のカスが残って溜まってしまうと、それが虫歯菌になります。
虫歯菌は酸を出し、歯のエナメル質を溶かします。(虫歯)
歯は骨に埋まっています。この骨は虫歯菌が出す酸がとても嫌いなので避けようとします。
避けようとするために骨が下がります。すると歯茎が下がってきます。
歯茎が下がることで、歯と歯茎の隙間が大きくなり、さらに食べ物のカスが詰まりやすくなります。
悪循環になります。

歯茎が下がることで、今まで歯茎に隠れていた歯の根の部分が出てきます。
エナメル質の部分が虫歯になるのと、歯の根の部分が虫歯になるのを比べると、表面から神経までの距離がかなり違います。
歯の根の部分が沁みてくる原因は、虫歯の場合と知覚過敏の場合があります。

歯の根の部分をよく磨ける歯ブラシはありません。
エナメル質の部分は歯ブラシをしても削れていきませんが、根の部分を普通に歯ブラシするとどんどん削れていきます。
強い力で歯を磨いている人、よく磨きすぎている人に知覚過敏がみられます。

電動歯ブラシをすすめる場合もあります。
だ液に再石灰作用があるとはいえ、基本的は食べ物のカスを除去することで虫歯菌がいない状況を作ることです。
ですからまめに歯石をとることは大事です。
どれくらいの周期で歯石をとればいいか、というのは個人差がありますので一概に半年とか1年とか言うことはできません。
僕の場合は、歯石をとってまず1ヶ月したら来てもらい、その状況から予測をして周期を決めています。

  舌を掃除するものが昔はありましたが、今もありますか?

A.  あります。うちも取り寄せられますよ。
歯ブラシで舌を掃除すると舌を傷つけてしまうことがあります。舌が傷つくと口内炎ができたり舌の働きがおろそかになって しまいますので、できれば専用のものを使ったほうがいいです。
舌の清掃をあまりすすめないのは、いい器具がないからです。僕たちが使っているものを譲れば上手にできるかというと、そうではない。 歯ブラシに比べて遅れている部分です。
基本は歯ブラシです。歯ブラシが上手にできていない人に応用である舌の清掃は教えられません。ですから口臭などで舌の清掃が必要な 人には治療をします。

  加齢でだ液の出が悪くなるとのお話でしたが、日常的にだ液の分泌を促す方法はありますか?

A.  20歳代、30歳代と50歳代、60歳代の口の中は何が違うのか? というと、やはり咀嚼能力です。筋力が落ちてくるように咀嚼力も落ちてきます。 また入れ歯を入れるようになり、自分の歯のようには噛めなくなってくる。
そこで噛む回数を無理やりにでも増やします。回数を増やすことで咀嚼能力があがります。
入れ歯の人は自分の歯で噛んでいる人の60%くらいしか噛めていません。噛めないものが多いとストレスが溜まります。
これは食べられる、食べられない。これは歯にくっつくから嫌だ。など、食べ物に関して以前には感じていなかったことを感じていく。 すると食べ物に欲がなくなってきて、食べたいという意欲もなくなってくる。噛みたいという意欲もなくなり、つばの出も悪くなると悪循環に陥ります。
歯科も訪問診療などを充実させると、寝たきりの人も少なくなるのではないかと思います。噛み合わせに問題があると考えられますので。
また寝たきりの人は歯医者さんにいけませんので、噛む能力が衰えてきますとやはりボケてきますし。
噛むことを充実させることで、いろいろなことが改善されてくると思います。

  気をつけていても、舌や唇の内側を噛んでしまいます。噛むと小さなつぶつぶができて、治るのに1週間か2週間はかかります。
気をつけているのに、なぜ噛んでしまうのでしょうか?

A.  上の歯と下の歯は噛み合っています。毎日噛んでいると磨耗を起こし、削れていきます。何十年も使っていると20歳代の頃よりも、 歯はかなり削れています。ですから噛み合わせが深くなります。
若い頃、舌は歯の下にありました。ところが噛む力が強い人や筋力のある人は歯が削れてきて歯の山がなくなってきてしまうので、噛み合わせが きつくなって舌も噛むようになってしまいます。
入れ歯で舌を噛んでしまう人の場合には、入れ歯の高さをあげてあげればいい。
自分の歯で舌を噛んでしまう人の場合には、高さを調節するというやり方にはリスクが伴います。虫歯でない歯を削って金属を入れて高さを少しあげる やり方があるにはあります。が、リスクを伴うことですし、舌を噛むこと自体は病気でもなんでもないわけです。
よほどひどい場合にはそういう調整の仕方もある、ということだけ覚えておいてください。

  歯並びが悪いので3分間歯磨きを勧められます。でも3分も磨いていると疲れてきます。
電動歯ブラシにしたらどうかと思うのですが、 どんなものがいいでしょうか?

A.  電動歯ブラシはどこのものも同じです。種類はこだらなくていいと思います。
患者さんから電動歯ブラシがいいか悪いか聞かれる場合に話すのですが、電動歯ブラシと手の歯ブラシの違い。電動歯ブラシの利点は、どんな人でも (歯ブラシの下手な人でも)90%磨けるということです。当てているだけで90%磨いてくれます。でも電動歯ブラシではとどかないところがあるので 100%にはなりません。100%近く磨きたい人は電動歯ブラシではだめです。手は角度を変えたり力の入れ具合を変えたりして100%近くまで磨けます。
全員が全員、電動歯ブラシを使うことで効果があるかというとそうではありません。歯ブラシが下手な人で今まで60%しか磨けていなかった人には 電動歯ブラシは効果がありますが、かなり磨けていてもっと磨きたい人には効果がありません。