2002年6月15日

「じょうぶなほねを作るコツ」

高野台松本クリニック 院長
松本 不二生先生




3匹のこぶたのお話 

あるところに3匹のこぶたがいました。名前はブー、フー、ウー。
3匹はオオカミに襲われないように、それぞれのおうちを作りました。
ブーはわらのおうち
フーは木のおうち
ウーはレンガおうちです。

そこへオオカミがやってきました。さぁ、どうなるでしょう?

皆さん、よくご存知のお話です。

わらのおうちは、オオカミの一息で吹き飛ばされ、
木のおうちは、オオカミの体当たりで壊されます。
いちばん丈夫なレンガのおうちはびくともしませんでした。

というお話でしたね?

では、オオカミが来る前に、大地震が起きたとしたら? 3つのおうちはどうなるでしょう?

レンガで作ったおうちは真っ先に壊れてしまいました。
木のおうちは半壊状態。
ところが、わらのおうちは軽くてしなやかだったので、全く壊れませんでした。


1.かたいほねはじょうぶなほね?

3匹のこぶたのお話・地震バージョンが今日のお話のテーマです。

「じょうぶ」と聞くとレンガの家を思いがちですが、「軽くてしなやか」ということも大事です。

骨大理石病(こつだいりせきびょう)
これは骨が大理石のように堅くなってしまう病気です。
この病気の人は骨が折れやすいので、医者にかかる必要があります。

このことからも、骨は柔らかくてしなやかである必要がわかります。

小さいお子さんの骨折は若木骨折(わかぎこっせつ)と言われます。
折れ方が「ポキッ」ではなく「クニャ」という感じです。

地震が起きた時にレンガの家が壊れてしまったのは、「堅くてもろい」こともありますが、「重い」こともあります。

直下型地震が起きると、重いレンガの家にはものすごい衝撃が加わります。 わらの家に、鉄の骨組みを組む人はいませんね? わらは軽いので鉄骨を組む必要がありません。
これと同じことが骨にもいえます。
体の軽い人は、骨が多少きゃしゃであってもいい。
体の大きい人は、骨もじょうぶなほうがいいということです。

― 骨密度 ―
骨の密度を測定してその数値で一喜一憂する人が多いですが、上記のように

体の軽い人は、骨が多少きゃしゃであってもいい。
体の大きい人は、骨もじょうぶなほうがいい。

ということです。

体の軽い人は、数値が低くてもじょうぶで壊れなければいい。
体が大きい人には、それなりの骨の強さが必要になります。

骨密度には基準値があります。
基準値はたくさんの人の測定値から平均を割り出したものです。
その基準値からはみ出した数値の人を、よくも悪くも異常としましょう、という約束事を作りました。

ですから、本当は「数値に左右されずに自分にとっていいかどうか」が大切になります。

じょうぶな骨とは   しなやかな骨。弾力のあるやわらかい骨。

― 骨を作るもの ―
目に見えるカルシウムの身近な例は、チョークです。炭酸カルシウム。
でも、チョークを投げて物にぶつけるとチョークは割れます。つまりもろい。

では、しなやかさ・粘り気のあるものを作っているのは何か?
たんぱく質 です。
骨の元になっているたんぱく質は、コラーゲン

食事をする時には、カルシウムだけに気をとられずにたんぱく質も摂るようにしてください。


2.じょうぶなほねは折れない?

じょうぶな骨=しなやかな骨 は、折れないのか? というと、折れます。
強い力がかかれば骨は折れる。

背骨の圧迫骨折はとても多いです。
年配の方は、しりもちをついただけでも折れてしまいます。
若い人の場合は、パラグライダーでまだ上手でない人が高いところから落ちてしまったような場合に折れてしまいます。

年配の方が背骨の圧迫骨折を起こしやすいのは、骨粗しょう症があるからです。

しかし! 年をとったらみんな骨は弱くなります。

骨密度の検査で、「あなたの骨密度は成人平均に比べて○○%です」という風に結果が出てきます。
年配の女性の方なら、60〜70%程度だと思います。
みなさんガックリなさると思いますが、これには誤解があります。

この表は世代ごとの骨密度の平均値をつなげてグラフ化したものです。
35歳を頂点に、グラフの山はなだらかに下がってきます。
すると、60歳、70歳になると骨密度も下がってくる。当たり前のことです。
その世代の人は、35歳の時と比べるとみんな骨粗しょう症になっているということです。

骨が弱くなる=骨細胞(骨を作っている細胞)が減ってきている。 これは病気ではありません。
肌を作る皮膚細胞が年齢とともに減ってくることで、シワができ、艶がなくなってきます。
しかし、これは誰も病気だとは思いませんよね?
これと同じことです。

骨粗しょう症であっても、若い時と比べればみんなが骨粗しょう症です。
骨は弱くなってきていますが、交通事故に遭えば30歳の人も骨を折ります。
60歳の人であっても、気をつけて、身のこなしがしっかりとしていて、バランスのいい生活をしていれば
怪我をしないまま元気でいることができます。
骨が強い、弱いだけでなく、どうやって上手に生活するか。
これが大事です。



3.じょうぶなほねを作ろう

<1>食事

昔、「人間は1日に600ミリグラムのカルシウムを摂らなければいけない」という説がありました。
日本人は平均して200〜300ミリグラムしか摂っていなかったのでカルシウム剤を飲まなければ、という動きがありました。

ところが最近の調査報告によると、
日本の年配の方のカルシウム摂取量は平均値を超えています。(偏食や病気のある人を除きます)
みなさん食事にとても気を使われるようになったので、バランスのよい食事をなさっているようです。

クスリがいいかご飯がいいか
カルシウム錠はカルシウムの塊ではないのか? と言われると、その通りです。
食べ物の中には薄く広く、どこにカルシウムが入っているのかわかりません。

人間の体は、カルシウム単独ではなかなか吸収しない仕組みになっています。
それよりもクエン酸カルシウムのように、いろいろな種類のカルシウムが他のものと一緒に入ってきたほうが
上手に体に取り込むことができます。

ですから、カルシウムは食べ物で摂るのがいちばん賢いです。

<2>太陽と運動

骨に必要なビタミンDはどこで作られるの?
腎臓 と 皮膚

腎臓で作られるビタミンDは活性が少なく、あまり役に立ちません。
紫外線を浴びるとビタミンDが活性化されて骨に効くものができます。

日差しの弱い北欧では、夏になると上半身裸になって日光浴するのは、ビタミンDを体内で合成するためです。
昔の東北地方では、赤ちゃんが日光を浴びる機会が少なく、くる病が発生していました。

現在、日本では1日に30分程度直射日光に当たればじゅうぶんだとされています。
(顔と手が日に当たればよい)

運動はすればするほど、骨が強くなります。
ところが、手足と背骨は別々なのです。

骨密度の測定はたいがい手で行います。
これは手が便利であるというだけで、医学的な深い意味はありません。
いちばん正確なのは背骨で測る骨密度ですが、そのための装置は日本に数台しかなく、測定の時間もかかり、
金額的にも少し高くなります。
手で骨密度を測って、いい結果が出たとします。しかし、しりもちをついて背骨を折ってしまうことがあります。

腕がじょうぶだということと、背骨がじょうぶだということは違うということです。

骨は力のかかる部分を強くしようとします。
手は手、足は足で鍛えなければいけないということです。

元気よく、勢いよく歩くということは、背骨・膝・股関節に力がかかるので足はじょうぶになります。
しかし手は関係ありません。
手を鍛えるには、手仕事をたくさんしなければなりません。

運動するのはいいことだけれど、運動をしたことで膝や背骨が痛くなってしまう人がいます。
運動は少しずつ少しずつ量を増やしていかないと、体を痛めてしまいます。
人間の体は、少しずつ負担を増やすことには耐えられます。
心臓も肺も胃も肝臓も同じです。
大食い選手権の選手も、ある日いきなりたくさん食べられるようになったわけではありません。
たくさん食べているうちに、消化管の機能が高くなったり、胃のぜん動能力が高くなったということです。
手足の間接や背骨も同じです。

年をとって困ることは、余力がなくなるということです。
余力が無いから、無茶をするとすぐにどこかを痛めてしまう。
骨の場合には、余力がないところに強い力がかかると折れます。
この場合、本人は特に何かをした、というつもりはありません。
これを疲労骨折といいます。

以前は疲労骨折というとスポーツ選手特有のものと考えられていました。
若い人が繰り返し激しい運動をすることによって起こします。(マラソン選手に多いです)
ところが、実際には激しいスポーツに限らず、骨は疲労骨折するのです。

普段は運動靴で近所の買い物に出ていた人が、急いでいたのでつっかけサンダルのまま
慌てて買い物に出かけました。すぐ近所のスーパーに行って帰ってきたら、足首が痛くなって腫れてきた。
医者に行ってみたら折れていた。
普段は運動靴なので靴底のゴムが衝撃を吸収していたのに、サンダルは薄くて堅かったがために、
衝撃を吸収せず、骨折してしまったということです。こういうことでも骨は折れます。

つまり、骨が弱くなってもろくなってしまっているので、急激なことをするとマズイのです。

運動はゆっくりゆっくり増やしましょう。
1日500歩しか歩いていない人であれば、1週間に100歩ずつ増やして1ヶ月後には1000歩になる、というペースで。

そして、どこか痛みが出たら一度立ち止まりましょう。
運動の量を少し戻してみて、また少しずつ増やしていくようにしましょう。

<身のこなし>
骨をじょうぶにして、もうだいじょうぶかというとそうではありません。
バランスもとても大事です。

バランスが悪いことによる怪我の中で多いのは、転倒事故です。(国内統計)
転倒事故の中でも、家の中で転倒して病院に運ばれる割合が7割も占めます。

高いところにあるものを椅子に乗って取ろうとして、バランスをくずして落ちてしまった。
なぜ落ちてしまったのか?
ひとつには足腰の筋肉が弱くなっているということ。
もうひとつは、バランスをとる機能が落ちているということ。

先日、長男と自転車に乗っていました。
息子は両手離しで自転車に乗っています。
「危ない」と言いながらも、私も昔はやっていたな、とちょっと試してみたんです。
ところが怖くてできない。
昔は、両手離しのままカーブを曲がって平気だったのに、今はできなくなっている。

つまり、体も忘れるということです。
学校で習ったこと、昔の友人の名前、いろいろなことを忘れますが、体も同様に昔できたことを
今は忘れています。忘れていることに気がつかずに、やってしまうから事故につながる。

でも、忘れたことは思い出せます。
思い出すためには努力をしなければいけません。
バランスがうまくとれるように日頃から心がけておく必要があります。

道を歩いているとき、トボトボ、フラフラと歩いていませんか? 前をしっかり見て、目標を定めて歩きましょう。
抜き足差し足も効果的です。猫が歩くような感じで歩くとバランス感覚が養われます。
それからフラミンゴ体操。これはフラミンゴのように1本足で立つ練習です。

実際に1日5分間のフラミンゴ体操を1年続ける実験をなさった先生がいて、
結果は、みんなバランスがよくなって怪我の量が減ったということでした。

体のバネを作ることも大切です。
体のバネを使わないと、跳びあがって着地しただけでもものすごい衝撃を受けます。
ところがバネを効かせるとフワッと降りることができます。

ウォーキングをする時に、大またで歩きなさい、というのはバネを使うためです。
バネを効かせないと大またには歩けません。

自分の足音に耳を澄ませてください。
バタバタと音を立てて歩いている人は、バネが効いていません。

足台の選び方も重要です。
足台は、必ず手でつかまる所のあるものを買ってください。(多少かさばっても仕方ありません)
つかまる所がないと、とっさの時に体を支えられず危ないからです。

そして、自信がなかったら高いところのものは取らない。
それぐらいの覚悟でいたほうがいいです。安全です。
ちょっとバランスを崩しただけで、大事故に発展することが目に見えていますから。

階段は明るくしておいてください。
昔の家屋は階段が暗くて、降りていった時に最後の1段を踏み外すことがままありました。
きちんと段が見えるように明るくしておきましょう。

こういうことで事故を減らしていけば、だいじょうぶです。